なんて控えめな表現で、ちょっと遠慮勝ちに、少し恥ずかしそうに、言ってみるのである。
なぜかと言えば、大したことじゃないと思っているからである。
いや、大したことじゃないと思われるだろうと思いこんで、みずから卑下して、そんな風につまらなそうに恥ずかしげに言ってみるのである。
僕以外にも多くの釣り人が訪れているのである。
とはいえ、もうそろそろ初心者マークを外そうか、という程度の釣り人である僕にしてみれば、大冒険なのである。離島である。きっと大物が釣れるはずなのである。
熱海からジェット船でほんの45分。うとうとして、ふと気付いた時には岡田港であった。
寒くて、曇っていて、風も出ている。
まったく期待外れの大島である。どんよりグレーの大島である。
船から降り、さっそく海を覗いてみる。
太陽が雲に隠れているが、その海の水の透明なことはわかる。
晴天であれば、海も真っ青なことであろう。
港の水でこれほどきれいなのか。
やはり島はちがうな。
しかし寒い。
岡田港の待合所でトイレを済ませ、外に出る。バスが停まっている。バス停で行き先と時刻表をチェックしていると、運転士らしいおじさんが声をかけてくれる。
「どこ行くの」
「元町まで」
「元町なら、このバスだよ」
そういって教えてくれた。バスの出発まで15分ある。ちょっと岡田港を見てこよう。
周辺地図で位置を確かめ、少し早足で港まで。いったいどんな港なんだろうか。そんな期待で、早足となる。
漁船が10隻ほど泊まっている。
そんな港の奥にも、ゴミが浮いていない。
当たり前のように、水がきれいである。
曇天にもかかわらず、海底まで見通せるきれいな海水。
ささやかな漁船でおじさんが何か作業している。
「ここで釣りしても大丈夫ですか」
そう聞くと、
「はいはい、もちろんです。やってください。ここでやりますか。今から船どかしますんで。それとも、この船出しましょうか?」
「いえいえ」
船釣りはお断りして、もう少し港を見て回る。
防波堤で遮られ、波が無く穏やかな港である。
こんなに水が澄んでるんじゃ、魚の警戒心が高そうな気もするぞ。
しかし、イカが入ってきてそうな気配もするぞ。
なんて、素人ながらに勘を働かせてみたりする。
ちょっと行ったところにテトラポットが沈められている場所があり、ささやかなサラシができている。なかなかよさそうなポイントじゃないか。きっとメジナが居ついているぞ。
もうバスの時間だ。
僕はバス停まで戻ることにした。
途中、さっきとは別のフィッシャーマンが、釣り道具を抱えた僕に声をかける。
「釣れましたか」
「いや」
「ええっ?」
急いでいたので、「見ていただけで釣りはしてないんです」なんて言い訳もしなかったが、彼のおどろきから推察するに、「釣れないなんて信じられん。釣れて当たり前だろう」ということだと思った。
停まっていたバスに、僕は乗り込んだ。
こんな天気だが、きっと釣れるぞ。
目指すは元町港である。